ステロイド外用剤の作用と副作用| 大田区大森の大木皮膚科
目次
ステロイド外用剤の副作用
注意すべきステロイド軟膏の塗り方は?
―当院診察室でのステロイド外用剤のご説明―
来院される患者さんの中で、 人に言われたことやインターネットの巧みな脱ステサイトの情報を信じてしまい皮膚科にかかった時には医師のいうことは信じない方がいます。無意味な脱ステを行って皮膚炎が悪化すると体全体の免疫機能にも異常を来しかえって副腎機能が抑制されることが報告されています。
アトピーの治療目標はステロイドを完全に止めることではありません。インターネットは様々な情報がある反面、何が本当に有益な情報か、ス剤を悪者扱いにして何かを売りつけたい業者なのか区別する判断力が必要です。ス外を多少使っても良いので頑張って皮疹を良くしたいという方にはお力になりたいと考えております。(※以下、ステロイド外用剤=ス剤と省略)
“ステロイドって、怖い薬なんですか?・・出来れば、使いたくないんです“という方が未だにいらっしゃいます。現在、インターネットなどで調べても、その作用・副作用、使い方などについて正しい情報が出てくることが多いですが、90年代のマスコミによるパッシングを知っている方にとっては抵抗があるのかも知れません。
※当院では基本的にステロイド外用剤を使うようお勧めしますが、診察時間内でお話しきれない説明内容をまとめてみましたので、ご参考にされてください。外用剤を安全かつ効果的に用いるためには、その特性を理解して適正使用量を守り正しく使っていくことが何よりも大切です。
※一部、アトピ-性皮膚炎・小児皮膚科のページと内容が重複しますが、特に重要な項目は繰り返しの記載となりますのでご了解の程お願い申し上げます。
ステロイド外用剤とは?
ステロイド外用剤って以前は使わない方が良い薬との扱いをされてきましたが、ほんとは局所のアレルギー反応を強力に抑えこんでくれるとても頼もしい味方です。ただ、使い方を誤ってしまうと諸刃の剣となる可能性もあり、その副作用もしっかり理解する必要があります。
◆外用剤の基礎知識◆
皮膚科で処方される外用には下記のように強さのランクが5段階あり、部位・皮疹の重症度に合わせて使い分ける必要があります。
最強 | デルモベート、ダイアコートなど |
より強い | アンテベート、マイザーなど |
強い | リンデロンV、ボアラなど(⇒体に使う普通の強さ) |
穏やか | リドメックス、ロコイドなど |
弱い | (現在、単剤では存在しない!) |
以上のようになっておりますが、普通に体に使われるリンデロンVクラスがStrong(強い)という表記になっているので注意が必要です。
◆外用剤の強さについて◆
外用剤はからだの部位によって吸収率に違いがあり、通常は体(首より下)に使うお薬はStrongクラス(中くらいの強さ)のお薬となり、少し炎症の強い湿疹ですとVery strongクラス(やや強い)のものを使うことが多くなります。Strongestクラス(最強)は、非常に強いため副作用も出やすく、非常に炎症の強い湿疹に限って、期間を限定して使うべきでしょう。
注意点としては、顔面・陰部では血流が良く薬の吸収率が高いため、通常はStrongより1ランク弱いMildクラス(穏やか)の外用剤を使い、余程皮疹がひどい時には短期間Strongクラスも使います。顔面のおおよその範囲は、下顎(男性で髭が生える部分)より上、前髪より下、耳より前とご説明しています。
お子さんにおいては、一般的に大人の場合より皮膚が薄くの吸収が良いとされておりますので、体に対してはMildクラス、顔に対してはWeekクラスと大人より1段階強さを落とすのが理想です。しかしWeekクラスの単剤は現在作られていないためMildクラスのものを間歇的に使用するか、薄めて使われることが多いようです。当院ではweekクラスの配合剤を中心に小児湿疹の治療をしております。
※上記の一覧表を参考に、使っているお薬がどのくらいの強さか把握しておきましょう。現在、リドメックスはMildクラスと分類されることが多いようです。非ステロイド外軟膏はかぶれることが多いので注意が必要であり、その代表選手であるアンダーム軟膏は製造中止になりました。
※院内には、ローションタイプも含めた薬の一覧表を掲示してあります。最近ではジェネリック処方が多くなっていますので、使われているお薬がどのメーカー品に該当するかは担当医、もしくは薬局にてお尋ねください。
塗り薬の強さについて;担当医からのコメント 他院から転院される方で安易にStrongestクラスの外用剤がだらだらと長く出ている場合をみかけます。また、まれに自己判断でStrongクラスの外用剤を顔面に用いている方がいますが、フルコートなど強めのものが一般市販薬として認可され売られているのも今後問題になると思われます。ステロイド外用剤は、通常4~5倍まで薄めて使っても必ずしも作用が減弱しないとされています。 |
主な作用・副作用
特にステロイド外用剤は局所のアレルギー症状を強力に押さえ込むことが主たる作用であり湿疹治療に対して非常に有効なお薬ですが、注意すべき副作用が2つあります。
※右図のような、ガサガサとする炎症の強い湿疹では必須のお薬です。湿疹やアトピーにおける皮膚の炎症を十分に鎮静化し、有効性と安全性が科学的に立証されているとされています。
◆皮膚の菲薄化・毛細血管拡張◆
ステロイド外用剤ではアレルギーを抑える代わりに皮膚の細胞増生も押さえてしまう働きがあります。適切な強さ・量・使用目的の範囲内で使っていれば問題ないのですが、必要以上に強いものを長期に使っていると皮膚細胞の増殖が抑制されて皮膚が薄くなってきます。また、皮膚が薄くなるため皮下血管が透過され毛細血管が浮き上がってみえるようになります(右図)。
これらの症状は顔面では頬部、体では前胸部、肘部、指先などで生じやすく、長期に使う場合にはこれらの部位に着目して副作用がでていないかチェックすると良いでしょう。
―安全なお薬の使用量は?― 当院では通常は顔面でmildクラスを月に5gまで、首から下の体ではstrongクラスを月に30~50g程度までが皮膚の菲薄化を起こさない適正な使用範囲と考えております。 |
◆にきび、ヘルペス、カンジダなど感染症に弱い
アレルギーを抑えるとともに、皮膚表面の免疫系の働きも抑えてしまいます。この副作用は免疫抑制剤であるプロトピック軟膏にも同様に見られます。
顔面は皮脂腺も多く、毛穴が化膿しやすい体質がありお薬が合いにくい方もいるようです。顔の赤みの全てがアレルギーが原因とは限らず、症状により薬を使い分ける必要があるでしょう。また、ヘルペス感染症や乳児のカンジダ症などに誤って塗ると免疫が抑え込まれるため症状が悪化する恐れがあります。
※他にも様々な副作用が報告されていますが、上記2つに比べると重篤なものは少なく、また頻度も稀であるようです。
※注意すべきは上の2点であり、長期に使うと効果が減弱する、皮膚に蓄積する、副腎が抑制され骨が弱くなる、などということは通常起こりえません。
※その他の副作用(例);創傷治癒遅延、紫斑、多毛など
違う視点から・・ステロイドの副作用=作用?? 副作用=作用とも言え、通常の皮疹治療で有害とされる事象も治療に有効な作用であったりするんですね。 |
外用薬Q&A;副作用のうそ・ホント?
元来はステロイド外用剤とは もともと内服や注射用として開発された副腎皮質ホルモンを全身的な副作用を軽減して局所にしっかり効果を出すために開発されたという経緯があります。良くある誤解は内服薬の副作用(全身的な副作用)との混同です。
(※ステロイド外用剤のうそとホント(鳥居薬品)より一部抜粋し、担当医の考えを補足しました)
◆外用ステロイドを一度使うとやめられなくなる△、依存症になる×
塗り薬の役目はあくまでアレルギー性の炎症を抑えることであり病気そのものやアレルギーを起こしやすい体質を直接的に治してしまうわけではありません。しかし、かぶれや急性の湿疹など塗り薬を使って症状を抑えこんでいると1~2週間程度で治ってしまう病気もたくさんあります。
一方、皮膚科ではアトピー、痒疹、尋常性乾癬など長くお薬を使わざるを得ない慢性的な皮膚疾患が数多くあります。ある一定量(strongクラスで月300g以上)を超えなければ全身的副作用は出ないとされていますが、局所的な副作用が出ていないかは、かかりつけの皮膚科で使っている量・強さに問題ないかを時々チェックをしてもらうと良いでしょう。炎症の酷い皮疹や慢性化した湿疹では、急性期の強い炎症が治まった後も、しばらく皮膚の中には炎症がくすぶり続けますので、塗布をいきなり止めずにしばらく使い続ける必要があります。(=プロアクティブ療法)
特にアトピー性皮膚炎治療においては様々な悪化因子により炎症が再燃してしまうこともしばしばあるため、完全に止めることを第一の目的とせず、まずは、ある一定量以内で皮疹をコントロールして皮膚を良い状態に保ち、快適に日常生活を送れるようにしていくことを外用剤治療の目標とした方が良いでしょう。
よく脱ステのサイトに書いてあるようなステロイド依存症・依存性皮膚といったものはなく、だんだん利かなくなってしまうこともありません。もし、効果が薄れてしまうなら軟膏剤の一番大きな副作用である皮膚が薄くなることはありませんから・・
◆いきなり塗り薬を中止するとリバウンドがある×~△
通常は使っていてリバウンドを起こすことはありません。炎症の強い皮疹や慢性化した皮膚病変では、炎症が多少収まり痒みが退いた後も、かさかさ、ぷつぷつしている間は皮膚に炎症が残り続けています。この時点でいきなり塗布を止めるとちょっとした刺激、汗などで痒みが再燃してしまいますがこれはリバウンドとは言いません。
また日頃の治療が不十分で皮膚の苔癬化病変が高度、皮疹のコントロールが悪い場合には、多少の体調の変化やストレスなどで急に状態が悪化してしまうことがあります。この場合は少量を使っても効果が不充分で必要充分量・期間の外用を使っていく必要があります。この場合もリバウンドという言葉は使いません。
一方、顔面などで一部合わない方がいるようです。そのような方では長期に使っていると治まる(もしくは使っているとかえって悪化する)が、突然やめてしまうとさらに悪化することがあります。この様なリバウンド現象は普通の体質の方、もしくは首から下の体では起きることはありません。かつて取り沙汰された脱ステ派の書籍などをみてみるとステロイドの副作用が起きた、リバウドが起こったとされる部位は9割が顔であるとされています。
※医学的にみると酒さ様皮膚炎、口囲皮膚炎と呼ばれますが、はっきりした原因が分かってないとされています。明らかな統計はありませんが、日々患者さんを拝見しているとアトピーや赤ら顔の方の約1割程度でそのような素因を持った方がいるようです。 ※当方の父(先代院長)は湿疹体質で、自分の顔にずっと塗り続けても、少し赤ら顔くらいで何も副作用はでないと患者さんに説明していました。良く見ると多少の毛細血管拡張はあるようですが酒さ体質はなかったようです・・・ |
◆ずっと使うと骨がぼろぼろになる×
内服や注射のステロイド剤を長期に使っていると骨がもろくなる、皮膚が薄くなる、正常な副腎機能が抑制されるなどの全身的副作用が出てきます。副腎皮質ホルモン外用剤はもともと内服薬の全身的副作用を減らし、局所の皮膚にしっかり効果が出るように工夫されてできたものです。最強クラスであるデルモベートで1日5g(月に150g)、strongクラス(中くらいの強さ)で月に300gというかなり多い量を使わなければ全身的な副作用はでることはなく、吸収されるホルモンも極微量なので副腎機能の抑制や骨がぼろぼろなる、成長障害などを起こすことはありません。
◆継続して使用すると皮膚の色が黒くなってしまう。×
よく患者さんから使っていると色が黒くなるのでは?という質問があります。皮膚の炎症が酷かったり慢性化した部位に外用剤をしっかり使っていくと炎症・赤み・痒みがおさまり治ってくる課程で必ず皮膚は黒ずんでカサカサしてくるので、これを副作用と勘違いして塗布をやめてしまう方がいます。痒みが止まってカサカサして黒ずんでいる場合は、まだ治る途中であり皮膚の中に炎症がくすぶっていますので、いきなり塗布をやめずに1日1,2回と外用を続ける必要があります。
炎症がくすぶっているときにある黒ずみは外用を継続していくと段々に薄れて普通の柔らかい皮膚に戻っていきます。塗り薬を継続してどんどん色が付いてしまうことは通常ありません。余りに炎症が強いと皮膚に傷跡を残したり炎症後色素沈着・色素脱失という形で残ってしまうこともありますが、これは塗布とは無関係に起こる現象です。よくある間違った使い方は、2,3日くらい塗って急に止めてしまうことであり、炎症がまだ残っているのに塗布を中断してしまう方もいますので注意が必要と思われます。
◆皮膚に蓄積する×、酸化ステロイドが沈着する×
塗布剤が皮膚に沈着することはありません。一部の脱ステを唱える医師たちが自分たちの正当性を理論武装するために作った根拠のない仮説であると考えられます。アトピ-性皮膚炎などで皮疹が慢性化して硬くなったりぶつぶつする状態、もしくは症状が寛解したあとにもぶつぶつが残ってしまう様子をみて、そのように考えたのかもしれません。
皮膚に塗布したのちに1~2時間すると、その8割程度が皮膚に吸収され効果を現し、種類にも寄りますが2,3日掛けて皮膚から血液中などに徐々に移行して消失すると考えられています。外用は症状が寛解したあとも週2,3回程度塗布を行うだけでも新たな湿疹を抑制する効果があることが分かっています(プロアクティブ療法)が、塗布後1~2日間は効果が少しずつ持続するからなんですね。
もしステロイドが皮膚に沈着するのであれば、もっと塗布の間隔をあけても効果があるはずですが実際はあまり外用をサボってしまうとまた、ぶつぶつや痒みが出てきてしまいます。余程皮疹が落ち着いても週2,3回程度は使っていないと悪くなるのは当然なんですね。
◆妊娠中や授乳中に使っても問題ありませんか?〇
妊婦さんが病院にかかるときまず心配されるのがお薬を使って大丈夫なのかということです。一般的にステロイド剤は皮膚から吸収される量は極少量であり、ご自身の副腎からでる内因性steroidに比べても、はるかに少ないため胎児や母乳に対する影響はほぼ無いと考えられています。逆にお薬を使わずに皮疹が悪化して痒みがでた場合に起こる不眠やストレスの方がかえって悪影響が心配されます。
一方、妊娠3,4ヶ月までの器官形成期までを過ぎるまでは内服薬はなるべく避けた方が良いと考えられています。皮膚科では痒み止め(抗アレルギー剤)がよく処方されますが、内服を用いるよりもまず、ステロイド外を用いた方が安全性が高いと考えられます。
※いくつかの抗アレルギー剤は海外の基準では妊娠中につかっても比較的安全であるとされています。
◆目の周りに使うと白内障になる×
眼瞼(まぶた)の皮膚は体の中でも最も薄く、また涙の塩分、目やに、髪の毛の刺激などによって痒くなりやすく、湿疹も慢性化する傾向にあり治りにくい部位の一つです。よく目の周りは軟膏が目に入るから眼軟膏の方が良いと指導する医師や薬局さんがあるようですが、眼軟膏は一緒に入っている抗菌成分でかぶれやすいことが分かっており、当院ではあまりお勧めしていません。さらに眼軟膏はもともと目の粘膜に使われる目的で設計されていますから、皮膚に塗っても充分な効果を発揮しません。
大人の方であれば、通常のmildクラスのものを目の縁ぎりぎりまで塗って問題ありません。眼軟膏と普通の皮膚に使う軟膏の違いは、基剤に純度の高いワセリン(プロペト)を使っているかと、製造工程の最後に加熱滅菌をしているかの2点とされています。あえて皮膚の軟膏を目に入れるようなことをしなければ問題は起こしません。
薬の能書書きには、白内障などの合併症も記載されていますが、重症のアトピー性皮膚炎の患者さんでは以前から白内障が生じることが知られております。ステロイド外用が広く使われるようになってからもその発生率の変化はなく、現在では目を擦ったり叩いたりすることや、皮膚自体の炎症が悪化することが白内障の原因と考えられています。
塗り薬ってどのように使えばいいの?
◆ステロイド外用剤の種類と塗布方法◆
外用剤には先に述べた強さの分類の他に、剤形の分類(主にローション、クリーム、軟膏)があります。①ローションは乳液状で伸びが良くべとつかず、浸透性が良いという特徴がある代わりに保護作用では他の基材に比べて劣ります。②クリームはさらっとしていて軟膏に比べると伸ばしやすく、浸透性や保護作用は中間くらいになります。③軟膏タイプは多少べとつくのですが、他に比べて保護作用があるため一般的には皮膚科のお薬というと軟膏が処方されることが多いと思います。
※実際の皮疹の状態・部位および患者さんの好みにより使い方をご指導するようにしております。
軟膏の塗布量については1FTU(ワンフィンガーチップユニット)という目安があり指先の関節1つ分にチューブから絞り出した軟膏(約0.5g)を手のひら2枚分の範囲に塗るという方法が一般的です。
一度やってみるとわかりますが、かなりべとつく感じになる量が適正な塗り方です。よく塗って軽く照かる程度、前腕に塗布したあとにティッシュを乗せて逆さにしても落ちない程度とも言われます。よくお薬を塗っても治らないという方のお話を良く聞くとチューブの軟膏が全然減っておらず使う量が少なすぎる場合も良くみかけます。
※過剰に慎重になり、極薄く短期間のみ使うという使い方ではまったく効果が出せません。
軟膏の塗布回数については様々な意見もありますが、痒みや炎症が強いときには1日2~3回しっかりと使い、症状が落ち着くにつれて1日1,2回~1日1回と頻度を落としていく斬減法をお勧めしています。もちろん、アトピーなどで乾燥肌もある場合には保湿ケアも同時に行っていかなくてはなりません。湿疹の緩解期に週2,3回と間歇的に使う方法をプロアクティブ療法と呼びます。
※シオノギTARCの患者さん指導箋よりプロアクティブ療法説明のために引用。
大切なことは、痒みがなくなっても少し黒ずんたブツブツが残っている間は、皮膚の中でまだ炎症細胞が活動を続けている状態なのでお薬を1日2~1回は塗り続ける必要があるということです。
※皮疹が出たときのみ塗布する従来の方法をリアクティブ療法、皮疹が治まったようにみえても塗布を間歇的に続けることを最近ではプロアクティブ療法と呼びます。皮疹が治まったようにみえても、塗布を続けた方が再発が抑えられ、かつトータルの使用量が減らせるのではと考えられています。
※炎症が酷かった方ほど、長期に炎症が残りますので治療を継続する必要があります。
※日々の外来においても、保湿ケアと外用剤をしっかり使って皮疹をコントロールできた方のほうが、長期的には皮疹の状態がほぼ寛解となる傾向にあり、皮膚の状態が良くなっている印象です。
◆苔癬化した湿疹に対する重層法◆
塗り方に関して、上記に記載したような単独で塗布する方法(単純塗布法)でも通常の湿疹には充分治療効果を出せますが、少し湿疹が慢性化してガサガサと硬くなった状態(苔癬化)になってくるとなかなか単純塗布法だけでは皮疹を改善することはできません。その場合には軟膏剤を塗った上から亜鉛華軟膏を重ね塗りしてガーゼで保護する重層法がよく行われます。
湿疹を掻く崩してジクジクしている場合やとびひの治療などにも応用されます。重ね塗ることでしっかり局所に効かせ、かつガーゼで覆うことで様々な刺激から皮膚を保護する効果が期待できます。重ね塗りがやや手間が掛かることと、亜鉛華が白くなりべとつくことが欠点ですが、炎症の強い皮疹や慢性化した苔癬化病変では必ず行う方法です。
※特に、重層法は診察時に必要に応じてご提案、実際に患部に塗布をしながらご説明するように致しております。
◆保湿剤の使い方◆
通常はお薬による治療を行い皮疹が軽快してくると、元来あった皮膚の乾燥症状が目立つようになります。良くお薬と保湿剤のどちらを先に塗るのですかと言う質問をお受けしますが、基本はステロイド外用剤が先で保湿が後からですとご説明しています。その理由として、まず皮疹があるところにしっかり塗り薬を効かせたいのと、アトピーや慢性湿疹ではまわりのカサカサも軽い湿疹変化であることが多いので保湿剤で薄くまわりにも伸ばされた方が良いケースが多いからです。
一部の薬剤師さんに保湿剤が先でお薬が後との見解を述べる方もいますが、保湿の上からでは効果が弱まる可能性があります。また軟膏を塗った部分にしか効果がないことが小児湿疹やアトピーなどで治療上好ましくない場合が多く、決して副作用を避けることにつながらないことが欠点になります。なお皮膚科医の7割以上の先生はお薬が先で保湿をあとからとの指導をするとのことです。
※大切!:皮疹の酷いところをメインに塗布をして、まわりのカサツキには上から保湿剤を重ねて広げるように塗りましょう。かさつきの残る部分にも炎症が残っていますが、軽い炎症には保湿剤で薄まったものも充分効果があります。軽くカサついた部分にも全て直接塗ろうとすると結果的にかなり多めのsteroidを使ってしまうことになります。
一般的に4~5倍に薄めて伸ばして塗っても十分は治療効果があります(右図)。皮疹の状態にも寄りますが、軟膏剤を手のひらで保湿剤(プロペトなど)で2,3倍に延ばして塗布している方もいます。
―保湿剤の使い方あれこれ― ・外用ステロイドと保湿剤を分けて処方 メリット; 症状の強い時はしっかり、治ってきたら保湿をと塗り分けが可能。状態に合わせ薄めて塗布できる。 デメリット; 部位が増えると処方数が増える、保湿との塗り分けが出来ない方がいる。塗る頻度などの説明が煩雑、どのような保湿剤が良いか好みが別れることが多い ⇒小児湿疹やアトピーなど長期に外用を塗る必要がある疾患にむく ・1つにまとめて保湿の混合処方 |
◆乾燥肌のスキンケアの基本◆
7~8割のアトピー性皮膚炎は適切な外用塗布と保湿、スキンケアの徹底で日常生活をおくるのに問題ないレベル(寛解状態)まで持ち込めると考えられています。また、ほとんどの湿疹ができる方には、敏感肌や乾燥肌を伴うことが多いのでスキンケアの徹底が湿疹治療上の基本となります。
※アトピー、小児皮膚科のページと内容が重複しますが、重要なので再掲します。
【乾燥肌対策】
・皮膚の乾燥や炎症が強いときは、風呂の温度はやや低めに、長湯、プールは避ける
⇒皮脂は容易にお湯に溶けるため、熱い湯や長く水に浸からない。
・ボディーソープや泡石鹸は界面活性剤が多く入っているため使用を避ける。ナイロンタオルやスポンジは擦りすぎになるので使わない。
⇒敏感肌用石鹸or普通の固形石鹸を泡立てて、柔らかい綿タオルか手の平で。
余りに乾燥の強いときはぬるま湯で洗い流すのみとし、石鹸は1、2日おきとする。
・肌着は綿100%のものを。化繊やナイロン素材のものはチクチクするので避ける
髪の刺激、襟やタグのこすれに注意。
【かゆみ対策】
・掻くと皮疹は悪化するので、少し掻いたら我慢して掻き崩さないようにする。
・痒いときは、タオルで押さえてじっとおさえたり、保冷材で上から冷やすと痒みが治まる。
・痒みの強いときは、激しい運動・アルコール・熱い風呂は避ける。
アトピー性皮膚炎治療におけるお薬の役割
一般的にステロイド外用剤とは・・・・ 普通の人には塗ると治ってしまう便利な薬・・でも、アトピーの方にとってはずっと使い続けなくてはならない薬・・・現在の所、他に良いお薬がないから、仕方なく使う物・・といったところがイメージでしょうか? |
◆当院での説明・・外用剤の役割について◆
塗り薬の役割は、あくまで湿疹部分で起きているアレルギー性の炎症反応を押さえ込むことです。塗れば塗るほど皮膚を丈夫にしたり、湿疹が起こりやすい体質やアトピー性皮膚炎の根本を直接改善する治療でないことはいうまでもありません。
極端にいうと外用療法治療のできることは皮膚に起こった炎症を押さえ込むことだけであり、そのあと、治っていくのは適切なスキンケアと患者さん自身の自然治癒力ということになります。
そもそも、アトピー性皮膚炎とは、①乾燥肌と②アレルギー体質の2つの要因が組み合わさり発症する病気ですが、さらにアレルギー体質はストレスや環境因子に強い影響を受けるため、薬による治療(ステロイド剤、抗アレルギー薬、漢方etc.)を行っていても、季節の変わり目、汗、乾燥、花粉、ホコリなど刺激により症状に波が出てきてしまいます。
一般的にはアトピー性皮膚炎の治療においても、1つ1つの皮疹については、通常の湿疹の治療法となんら変わりはないとされています。たとえば、難治性の皮疹に対して様々な強さ・基剤(乳液、クリーム、軟膏)を症状によって使い分けたり、重ね塗りをしてガーゼで覆ったりする方法もよく取られます。 すなわち治療によって個々の皮疹の炎症をしっかりと押さえ込み症状をコントロールし、保湿やスキンケアをしっかりしていくことで炎症を起こしやすいアレルギー体質自体も改善され寛解になっていって欲しい・・というのが西洋医学的なアトピー性皮膚炎治療の基本と言えるでしょう。 |
たしかに、鼻炎・蕁麻疹などのアレルギー疾患治療では症状を放置すると徐々に悪化したり重症化することが良くあります。また、アトピーや慢性化した湿疹を掻く崩していると皮疹が急に全身に広がって自家感作性皮膚炎や紅皮症などという酷い状態になることもしばしば経験します。アレルギー疾患はくすりを使って症状をコントロールしていくと、症状が寛解していくものも多くありますので、アトピーにおいても外用をつかって症状を抑えていくことにも意味がありそうですね。
また、多くの大学病院などやアトピー治療で有名な病院での治療を書籍・医学雑誌などでみていくと適切な治療(おもに重層法、ウエットラップ法など)を行うと重症なアトピーの皮疹でも改善するという報告が数多くあります。ほとんどのアトピー性皮膚炎では塗り方が不完全で外用の量も足りなく、保湿も全然足りていないという意見があるのも事実です。
アトピ-性皮膚炎の病勢を示すマーカーとして最近TARCという検査が注目されています。この数値が高い時は、まだ皮膚に炎症が残っているので治療を継続した方がよいと分かる、皮疹の改善度を数値として目で見えるなどのメリットがあります。定期的にTARCを検査することによってご自分の炎症スコアがどのくらいであるか把握できるとアトピーの自己管理の目安になると考えられています。
一方、軟膏療法により治療を行って皮疹が改善しても疲労や精神的ストレス・体調、暑さ・寒さなどの季節変化などによって皮疹がまた再燃してしまう方が多いのも事実であり、症状に波がある疾患と言われるゆえんです。さらに、悪化要因については個々の患者さんによってことなることが多い印象であり、症状の自己コントロールが必要となる疾患でもあります。
一般的な表面の皮疹に対する外用剤治療やスキンケアについては共通する項目が多く外来にてお話することはできても、個々の患者さんの悪化原因は多種、多様、個人差がありすぎて、画一的な指導が困難ともされます。たとえば、食生活一つとっても玄米がよい、悪いなどと様々意見があり、どのような食事が合うかは患者さんの体質によるところが大きいと考えられます。
※図はアトピー性皮膚炎の患者さんの軟膏塗布量に関する統計ですが、成人において顔で月に約5g、体全体で約50gとなっております。
そもそもアトピー性皮膚炎は治るのか?様々な悪化因子について
1つ1つの湿疹の治し方はアトピーも普通の湿疹も基本的には同じであると考えられています!!しかしステロイド外用剤治療の他に、下記のような悪化原因は患者さんにより個人差が大きいものも多く、どのような対策をとっていけば良いのでしょうか?
◆アトピー性皮膚炎の原因◆
アトピー性皮膚炎の原因は大きく分けて①乾燥肌体質(皮膚バリア機能の低下)、②アトピー素因(アレルギーを起こしやすい体質)の2つが基盤にあると考えられています。
1、乾燥肌体質
アトピー性皮膚炎の3割程度に皮膚のフィラグリン遺伝子の異常がみられ乾燥肌体質の誘因として注目を集めました。つまり、普通の人より皮膚が敏感、デリケートであることが大きな一つの原因です。さらに近年では泡石鹸、ボディソープなど界面活性剤の使用量の増加が乾燥肌を助長しているとも言われています。その他には、水道水の塩素濃度、ナイロンタオル、スポンジなどで洗いすぎ、熱い風呂、長湯、プール、化繊・羊毛の下着や服などが乾燥肌の悪化要因となります。
2、アトピー素因(=アレルギー体質)
アトピー素因とはアレルギーを起こしやすい体質(=環境・ストレスなどに敏感に反応し易い体質)とも言うことができ、アレルギー性鼻炎、喘息なども合併することがあります。例えば、田舎では花粉症を起こさなくても、都会では起こす方がいたり(水・大気汚染、排気ガスなどの影響)、海外などではアトピーの症状まったくなかったのが東京に帰ってきたら悪化したと言う話は、枚挙にいとまがありません。 しかし地方にすんでいるからアトピーに掛からない訳ではないようです。
近年アトピー(アレルギー疾患)の増えた原因として、よく挙げられるのは①現代の都会的生活様式、社会的ストレスの増加、②食生活の欧米化、摂取脂質の増加、コンビニやインスタント食品の増加などに加え、子供の頃に自然に触れない、泥遊びをしないなど過度に清潔な環境がアレルギーを助長しているのではとも言われています。
◆様々な悪化因子対策の優先順位は?◆
では外用治療以外に、どのような対策を行っていけばアトピー治療に有効なのでしょうか?
その1,スキンケアを徹底する
適切なスキンケアを行うだけでも6~7割以上の方の改善を認めるとの報告もあります。熱い風呂や長湯を避けるなどの入浴時の注意やボディソープなどの界面活性剤を避け石鹸をつかうよう心がけることも大切です。特に小児アトピーでは外用治療とスキンケアをしっかり行っていくことだけでも、長期的には多くの方で皮疹の寛解が得られる印象です。
その2,次に一番大切なのは日常生活の管理です
成人型のアトピーの場合は少し事情が複雑で、社会生活上のストレス、食生活の乱れ、運動不足なども悪化因子として重要になってきます。食生活の改善としては、バランスの良い食事を心がけ、和食中心、無農薬野菜などにすることも効果があるようです。しかし、どの食品を取ると良いかは個人差があり、一人一人がどのような食事を取ると良いかを判断していく必要もありそうです。適度の睡眠・休養、禁煙、ほどほどのアルコールなどストレスを減らす工夫も必要です。さらに適度の運動を行うように心がけた方が良いとも言われますが、運動には全身の血行をよくしたり免疫力を高める効果があるのかも知れません。
※最新の研究では運動して筋肉を動かすことにより免疫細胞が賦活化することが分かってきたそうです。
食生活改善、適度な運動・睡眠、ストレス対策は全ての生活(疾病予防)の基本! |
※特に成人型アトピーにおいて重要=自然免疫力をアップさせ、自己治癒力を促す
有効性の高い対策として入院治療の他に、温泉療養などもよく話題になります。入院治療では外用剤治療をしっかり出来るほかに、入院生活自体が食生活改善、ストレス軽減につながること、さらにアトピー治療に力を入れている病院では正しい外用治療の指導や精神的サポートなども有効性を上げている一因と思われます。
温泉療養については、確かにアトピーによいと言われる温泉も全国にいくつかあると聞きます。但し温泉自体の効果だけでなく日常生活を離れてゆっくり出来ること、温泉地自体の環境が良い働きになるとも考えられています。また、一般の社会生活を送りながら温泉療養を長期に行うのは現実的には難しいのが問題です。
3,その他の悪化因子・治療法
アトピ-性皮膚炎の対策として、過去にはダニ対策や食物アレルゲンの除去が強調された時代もありました。しかし、ダニ対策のみを行っても改善率は2割程度(プラセボ効果)と同じ程度との統計もあり、また食事制限による小児の発育障害などの弊害が問題となり、現在では極端な食事制限はおこなわない方向になってきています。
しかしダニやホコリ・カビなどは常にアトピ-性皮膚炎のアレルゲンとして上位に来ますので、ホコリなどに過敏な方は出来る範囲での部屋の掃除やホコリ対策も行っていった方が良いでしょう。また、明らかに悪化する食物アレルゲン除去は行う必要があると思いますが、あくまでバランスの良い食事が大切です。
漢方治療も有効と考えておりますが、まず外用治療・スキンケアをしっかり行い、食生活など日常生活の改善を行っても症状が悪化する場合の補助治療としての位置づけだと考えています。
他には、金属アレルギー対策や.紫外線治療も水対策などもありますが、どのような対策をとれば症状が落ち着くかは、時間をかけて見極めていく必要があるでしょう。
※西洋医学的な治療優先順位は①ステロイド外用剤、②保湿・スキンケア、③日常生活の管理ですが、本来あるべき姿は③→②→①なのではという意見もあります!皮疹の酷いときは①②③の順番を優先して治療して、状態が落ち着いてきたら③②①という順番で生活を整えていっては如何でしょうか?水がよい、肉を減らすとよいと様々な意見がありますが、どのような食生活が合うかは最終的にご本人の体質によって変わってくるものと思います。
―コラム― そもそも、70年代、80年代まではアトピーは一部の子供の病気と考えられていて外用と保湿で皮疹をコントロールしていけば思春期を迎える10才くらいまでにほとんどが寛解状態になると考えられて、成人の重症なアトピ-性皮膚炎というものは存在すらしなかったと言います。 ※当方も学生時代にそのように教わりましたが、その頃はストレスのない平和な時代だったのでしょうか?生きるために、生活するために頑張っていかなければならない時代、国ではアトピーはあまりいないとも言われます・・・ |
◆アトピーの治療をしていると、こんな方々がいます◆
・年に数回来院して、お薬を処方するのみで落ち着いている方(軽症アトピー?)。
・治療を続けているうちに、同じ薬で症状の安定してしまう方。
・治療を続けているが、季節の変わり目・ストレス・仕事が忙しいなどの理由で悪化する方。
・重症のアトピー性皮膚炎で、お薬を使わざるを得ないが症状が強いと内服steroidを時々必要とする方。他院から来られるからに多いですか、内服の副作用はご説明しています。
・重症アトピーでカポジ水痘様発疹をときどき併発する方。
※良くないパターンとして最近感じることは・・
・悪化する場合に共通する事項として、①定期的に来院されず症状が酷いときのみ来院する、②来院されたときに症状が酷いので外用の量がどうしても増えてしまう、③仕事などが忙しく無理をしてしまう(生活の自己管理、調整ができない)、④悪化するときに外用軟膏のみに頼ってしまうと、薬が増える⇒塗っても効かないという負の連鎖に陥ってしまう、という傾向が散見されます。
ステロイドパッシングって?
治療薬としてのsteroidは今から60年程前に開発され、まずは内服が臨床応用されリウマチなどの難治性疾患に奏功することが確認されました。つぎに内服での全身的な副作用を軽減する目的で外用剤としての改良が進められ、様々な皮膚疾患にも使われるようになりました。本剤の登場以前は治すことのできなかった様々な皮膚病がス外剤が実用化されたことによりやっと治すことが出来るようになってきました。
さらに80年代に入り外用剤の開発が進み、より効果の強い薬が登場する一方で、一部の皮膚科医もしくは皮膚科医以外の医師により保湿などのスキンケアを充分指導することなしに強さをどんどん強くしてしまったり、患者さんの間違った使用法などが原因でsteroid皮膚症を起こす事態もあったといいます。80年代後半に、アンテベートというvery strong クラスの外用剤が患者さんの判断により勝手に顔に連用されて副作用が発現したにも係わらず裁判が起こるという事件も起きました。
その反動で90年代にあるテレビ局Aのニュース番組を中心にしてス外反対キャンペーンが行われました。あるアナウンサーKがとにかく怖いので使わない方が良いとあおり、番組で、「ステロイド外用剤は最後の最後、ギリギリになるまで使ってはいけない薬だ」と発言したことは非常に有名です。それを聞いた多くのアトピーの患者さんがお薬を止めてしまった結果、ほとんどの方で症状が悪化し大病院に駆け込みス外をきちんと使うことで改善したことはご存じのかたも多いでしょう。また、後になって証言者が嘘をついてたことが判明してもテレビ局や当のアナウンサーからは謝罪や訂正は一切無かったそうです。(一部で謝罪・訂正報道を行ったと言うはなしもあります)
※そのころは、まだインターネットもなくテレビが一般市民の情報源として絶大なる影響力をもっていた時代の話です。やたら沢山つかってはいけない薬と啓蒙した意義は大きいですが、本当に塗り薬を使った方が良い方までもつかわなくなるという弊害を生んでしまいました。
それから、しばらく皮膚科の外来には、「まさかこれにはステは入っていませんよね、ス外剤だけは決して使いたくない」という患者さんが連日訪れ・・・薬の説明に苦慮した時代がありました。未だに、過去のTV放送の知識やインターネットでス外用を悪く言っているサイトから得た情報を信じ込んでしまい全く治療を拒否する患者さんが時々いらっしゃいます。
―コラム― 当人は著書でアトピーであると言っていますが、最近書かれた著者の本をみるとアトピーではなく酒さ様皮膚炎なのではと思われます。多くのアトピーの方にsteroidを怖い薬と流布してきましたが、最近ではなぜかス剤を使いたい人は使えば良い、とややトーンダウンしているようです。 |
脱ステロイドの歴史
90年代初め、ス剤パッシングに同調し一部の皮膚科医師が脱ステ治療を唱え、根本的にステをやめることがアトピー性皮膚炎治療には必要だという仮説を唱えはじめました。中には脱保湿、脱軟膏などという説まで飛び出し、アトピー性皮膚炎の患者さんは何を信じて治療を行ったらよいか混迷を極めた時代があったと云います。
さらに、ス外パッシングを巧みに利用してス剤を悪者扱いし高額なクリーム・温泉水などを患者さんの弱みに漬け込み、売り込もうとするアトピー便乗商法(アトピービジネス)なるものまで出現しました。塗り薬を悪者にする、外用剤を塗ること自体がアトピーを悪化させるという極論、お薬を使わなくても治せますよ・・と甘い言葉で誘いかけ、治療がうまくいかないと、これはス剤のリバウンドですと!という手口が一般的です。未だに、ス外、副作用、酸化ステ(?)などという、キーワードで検索を行うと脱ステ便乗商法の一見非常にきれいに作られたサイトに行き着いてしまうこともありますので、これらを見極めることが大切です。
アトピー性皮膚炎は単にス剤を塗るのみだけでは完治がすぐには難しいこと、喘息などと違い疾患そのもので命を落とすことはないため便乗商法のかっこうの的になりやすいと考えられています。 |
◆脱ステ治療の実体◆
全てのス剤をやめれば、1か月ちょっとで全く良くなってしまった・・顔などでス外がもともと合わない人ではありえるかもしれませんが、体のひどい皮疹を治療しないでいると、まずは治りません。
その当時は全く外用せずに、半年以上開けてガサガサになり悪化してくる患者が多数いたそうです。現在でも、インターネット情報を信じ込んで自己流の脱ステをしている患者さんを時々見かけます。何とかまた、お薬とお付き合いして皮疹を少しでも良くしたいという方のお手伝いは出来ますが、全くス外剤を使いたくないといった患者さんの扱いには困ってしまいます。
※脱ステを唱える医師、アトピービジネスのいくつかは2000年代初めに逆に患者さん方から裁判を起こされ敗訴しています。
◆ある脱ステ本の実態◆
①ス外は長期に使うと効果減弱反応がある、②ス剤依存皮膚になる。以上2点を上げるが、学問的根拠が全くない(わずか4行の記載のみ)。現在、ス外を使っている人はいきなり止めずに斬減法を行うとありますが、通常の皮膚科医が行う極当たり前の方法になります。また、局所皮疹コントロールの具体的方策が示されていないことも問題です。一部の患者さんでは、皮疹を良くすることよりス剤をやめること自体が目的になってしまっている(脱ステ依存症??)場合もあります。
その他、様々な効果のない民間療法が取り沙汰されましたが、脱ステで治るなら、90年代多くのアトピーの患者が自然治癒に向かったはずであると考えられています。
◆漢方治療について◆
一部の漢方薬局でス外治療を否定、悪者扱いすることで、高額な自費漢方治療のみに誘導する手法がとられている場合がありますが、これも誤りです。漢方にも出来ること、出来ないことがあり、今ある皮疹の炎症にはス外剤が必要です。あくまで西洋的な治療(ス剤)が優先で、漢方は補完治療です。日本の医療制度の良いところは漢方(エキス剤)が保険適用であるということです。※漢方発祥地である中国や韓国では漢方薬は保険適用ではありません。
―コラム・・・漢方で出来ること― 漢方はすべての方に有効ではなく、元々生薬(植物)由来な為に体の中の酵素や腸内殺菌叢により効き易い人・効きにくい人がいると云われます。また方剤自体の選択が患者さんの体質・状態(証)に合うものでないと効果を発揮しません。しかしながら、うまく使いこなせばス外治療だけでは改善しない体質面の改善の補完治療として期待できるのではと考えています。漢方薬に期待できることは・・・ ・じくじくを取る、痒みをとる、乾燥を抑えるなど皮膚への直接作用 ・顔面、背部などが化膿しやすい体質を改善 ・ストレスや気を散らす作用、胃腸機能調整 ・体全体の血の巡りの悪さを改善(駆お血剤)、体の回復力を立て直す(補剤) 以上のようになりますが、熱海にある著名な漢方皮膚科の先生は漢方薬を出す前に、食生活指導にかなりの時間をかけてお話されるそうです。 |
※ス外を使わないことが根本的な解決になっていないことに現在多くの患者さんが気がついているではと思います。脱ステは、高血圧・高脂血症などを西洋医学的な血圧の薬・高脂血症薬をつかわずに日常生活の管理などで疾患を治そうとする行為に似ています。なるべく薬を使いたくないと希望される方もいますし、軽症な方は生活を少しずつ改善することで自然寛解も得られるかも知れません。皮疹が酷い方・重症のアトピーの方などにすべてに薬を使わない方針を適応すると大変危険であると思います。
皮膚科での外用治療の問題点
◆ステロイド外用治療の患者さん側の問題◆
1,ス外のみを出来るだけ多く欲しいと希望する方がいる。
保湿など効かないから、忙しくて来れないのでという理由で上記のような希望をされ、症状さえ治ればいいという中年の男性に多い傾向があります。ス剤は無制限に塗っても安全なくすりでは決してありません。症状、皮疹の範囲にも寄りますが1回に処方するのは、ひと月以内で使っても安全と考えられる量でとご説明しています。皮疹が治らなかったり長引く場合は定期的に診察を受けるようにされてください。
2,steroid忌避や怖くて全く塗ってくれない方、ほんの少ししか塗らない方がいる。
軟膏の塗布量はチューブを絞り指先第一関節の長さで手掌2枚分と言われています。塗布した後に軽くテカる程度、前腕部に塗った場合にはティシュを乗せ逆さにしても落ちない位と言われています。余り軟膏を使っていただけない患者さんでは再診時に確認させていただくと、使って頂きたい量の4分の1も減ってないということもよくあります。外用剤は余りに薄くしか塗らないと充分な治療効果を発揮しません。
3,体用に処方した外用剤を勝手に顔に塗ってしまう。
市販のフルコートなどの強めものを自己判断で顔に連用してしまう方もいます。顔面は血行がよく吸収がよい場所なので、体に通常用いるstrongクラスより一つ弱めのmild(midium)クラスを使うのが一般的です。長く使っていると皮膚菲薄化・毛細血管拡張やニキビ・毛嚢炎を起こす事があります。体質によりsteroid座瘡、酒さ様皮膚炎、口囲皮膚炎などを起こしやすい方もいるようです。その場合に強さを徐々に落とす方法もありますが、一般的に外用を止める治療法が取られることが多く、一時的に赤みが強くなったりジクジクと化膿した様になり、いわゆるリバウンド状態になります。
このような症状を経験した一部の医師が根本的にス剤を止めるのがアトピー性皮膚炎の治療であると勘違いしてしまったのが脱ステであるともいえましょう。これはス外剤が悪いのではなく体質的にス外が合わない、もしくはス剤だけで治らない病態に外用剤を使い続けてしまうことが悪化原因です。
4,重症なアトピーで無意味な脱ステを行う。
―医師のつぶやき― ス外用剤はどのような薬を、どのくらいの期間使っていたかということも大切な治療に関する情報です。今まで長い経過があるのに使っていたお薬に関する情報をまったく持ってこられない方は、この方は本当に困って受診されたのかな・・と思ってしまいます。今までの治療に関する情報を問診票にしっかりお書きいただけますと助かります。 あと、年に1,2回・数ヶ月ぶりに来たのに”先生のくすりを塗っても全然治らない”と平然という方には参ってしまいます。ちゃんと毎月定期的に通院されていても、皮疹が改善しないのであれば自分の力量のなさを恥じて、申しわけありませんと思うのですが・・・ |
◆ス外治療の医療側の問題◆
1,経験を積んだ皮膚科医であれば皮疹の診断は一瞬で出来てしまう。
特に夏の繁忙期などでは皮膚をちょっとみただけで、ス外剤がポンと出て皮疹の治し方、使い方について詳しい説明がされずに診察が終わってしまう医院もある。皮膚科では急性の虫刺され、かぶれなどス剤を塗っていると治ってしまう疾患も数多くあります。一方、アトピー性皮膚炎を始めとして手荒れや掻き崩して慢性化した湿疹ではちょっと塗ってすぐ治るというわけにはいきません。外用剤の使い方や頻度・保湿剤の併用など一人一人に合わせて塗り方を調整・指導していく必要があります。
※上記のような対応に、アトピー性皮膚炎の患者さんは、またこの医者も同じかという落胆をもって医院を去って行くといいます・・ある大学病院のアトピー専門医師は初診の方は必ず全員パンツ以外裸にして全身を隈無く触って診察するそうです。なかなかそこまでは限られた時間内に難しいですが、出来るだけ上半身は脱いでいただき皮膚の状態を診察するようにしています。なるべく脱ぎやすい服装でご来院頂けますと助かります。 |
2,外用薬を塗らないことを責めたり、怒ったりする医師がいる。
治療効果が出ないことを患者のせいにしたり、外用剤が効かないとドンドンと強い薬にしてしまうことがあったといいます。その場合、適切な外用指導や塗布の工夫が出来ていないことが多いとも考えられます。90年代にマスコミを中心に起きたパッシング現象を知っている世代にはス外剤は何となく怖い薬といった印象があるのかもしれません。
ス剤は炎症の強い皮疹では確かに強くすると効果がある場合もありますが、体質的素因・刺激となる原因などがある場合には押さえ込むことが根本的な解決にならないケースも考えられます。
3,分からないと取り敢えずス外という安易な外用選択になりがち・・・
皮膚疾患はいくつかの特殊な病気を除いてはス外が有効な場合が多く、はっきり診断がつかないは場合はス剤を使い反応を見ることもあります。また、医師から見ると明らかな湿疹なのに患者さん自身が原因に気がついていない場合もあり、短い外来診察の時間内では原因究明まで至らず、ス外を処方して何か刺激になっているものはないか注意をしてみるようにお話しせざるを得ない事もあります。
実際、化膿性疾患とカビを見落とさなければ多くの皮膚疾患がス剤が効いてしまうので、安易にス外が処方されがちです。当院でも必ずしもすべて正確に診断している訳ではないと思いますが、なるべく疑われる疾患名はお話しするようにしています。
4,外用剤の使い方が患者任せで、塗る量、塗り方は患者さん次第?
通常、内科などでは医師がどの位薬を使うか状態をみて決定し、患者さんは決まった量をきちんと飲むというのが一般的と思われます。しかし、ス外剤については実際に使う頻度、塗布量が患者さんの判断に任せっきりになってしまうケースも多いと思われます。
医師がきめ細かく塗る量・頻度などにつき説明を行い、かつ再診時には皮疹の状態を確認するとともに残った外用剤の量から使用量に問題ないかチェックを行います。例えば、顔の皮疹がひどいのに最近顔用の弱めのステ処方のないことより体の強いス外を顔に塗っていることが分かったり、外用剤の使い方や保湿が足りてないなどの情報がわかります。
当院では処方は皮疹の状態から1ヶ月で必要な分を目安に出しています。アトピーであれば皮疹のコントロールの為に定期的受診は必要ですし、もしも再診までの期間が空いてしまっても状態が良ければ湿疹を患者さんがちゃんと自己管理できている証拠です。
5,アトピ-性皮膚炎はありふれた疾患であるという認識から、あまり大学などの治療機関の研究対象となっていない。
アトピー性皮膚炎は元来、乾燥肌傾向の子供などがかかる疾患でス外剤・保湿剤ケアをしっかりしていけば大多数が思春期を迎える10才前後までに自然寛解するcommon diseaseであり、従来大学病院など研究機関の対象ではなく市中病院等での治療で充分と考えられてきました。一方、近年成人になってからアトピーを発症・再燃する患者さんが増えてきましたが、悪化原因が多岐に渡り外用剤を中心とした標準治療のみでは寛解が得にくく指導時間も比較的多くかかってしまうのが問題となってきました。皮膚科医院側からすると全身の皮膚を如何にくまなく丁寧に診察しても治療費(医院収入)は変わりないという現実があり医療制度の問題もアトピーを熱心にみようとする医師が余りいない原因と思われます。
6,非ステだから大丈夫・安心
ステパッシングに伴い、余りにス外剤を拒否する患者さんが外来に溢れ、ス剤以外の薬を希望する方が一時大勢いらっしゃいました。一部の治療に自信をもてぬ医師らがス剤からの逃げ道として、これは非ステだから副作用はでないから安心ですといって処方したケースもあったそうです。しかし、ス外剤を治療選択肢からはずしてしまうと、皮膚科治療薬は保湿剤としてのプロペト(ワセリン)、尿素軟膏、ヒルドイドくらいしかないのが最大の欠点です。しかも、非ステド薬は湿疹・アトピーに使うと半分以上の方々がかぶれることが分かってきたため現在は余り使われなくなっています。なお、アンダーム軟膏という非ス外は酷いかぶれをたびたび引き起こしたため、現在は製造中止となっています。
7,薬局で売られている市販薬にス剤を含むものが今後増えてくる
最近では医療費抑制の国政方針がありstrongestクラスのス外剤まで市販しても良いと言うことに知らない間にルールが変わってしまいました。ス外は顔面ではstrong以上、体ではvery strong以上を使い方が分からずに一般の方が使用するのは、極めて危ないと思います。自己判断でお薬を使い皮疹が悪化したりsteroid皮膚症を生じた時には今度は一体誰が責任を取るのでしょうか?
・・・そういう意味では外用剤は自己判断で塗るのは少し怖いお薬というぐらいの認識の方がよいのかもしれませんね。
当院では・・・
当院では、ステロイド外用剤はその使い方を理解して正しい使用法を行っていけば、あまり恐れることのないお薬であると説明しております。ス外剤につき疑問があったり、ご不安を持つ方には、その作用・副作用つき御説明させていただき、場合によりパンフレットなどもお渡ししております。
しかし、最近でも知人に聞いたりインターネット情報を鵜呑みにしてス外を忌避もしくは拒否される方が時々来院される場合があります。一般的に体質改善や悪化因子の除去のみではアトピー性皮膚炎をコントロールすることは非常に困難です。(残念ですがそのような場合には当院では全くお力になることはできませんのでよろしくお願い申し上げます。)
ス外用剤が皆様の治療のお役に立ち、健やかな皮膚の回復をお手伝いさせていただければと願っております。
※ご注意※
このページの内容は実際に診察室でお話している外用剤についてとその副作用・注意点についてまとめたものです。また、ときどき来院されるステ忌避の方にはどうしても80年代に起きたステ裁判、90年代のパッシングを世の中に広めたテレビニュース番組の報道については触れなくてはなりません。実際の治療にあたっては、担当医の先生とよく相談の上、どのようにステロイド外用剤を使っていくか判断していただくようお願い申し上げます。
※H30.8月のgoogle検索改変に伴いsteroidという言葉を略して記載しております。