掌蹠膿疱症における紫外線治療の効果
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掌蹠膿疱症とは、手足に無菌性膿疱を慢性的に繰り返す難治性皮膚疾患です。悪化誘因としては「扁桃腺炎などの慢性感染病巣、喫煙、歯科金属アレルギー」などが考えられています。治療には、ステロイド外用剤・活性型ビタミンD3外用剤などの外用治療が、まずはじめに行われます。外用剤治療で効果の上がりにくい場合には、「308-311nmの紫外線を選択的に照射するナローバンドUVB療法」等の紫外線療法を行うことが推奨されます。
紫外線治療に関しては、従来はPUVA療法(ソラレン外用+UVA照射)が行われ効果を挙げてきましたが、手技が煩雑で一般皮膚科外来での対応が困難でした。ナローバンドUVB療法は、「日焼けをしやすい290nm以下の波長をカット」することで紅斑を生じにくく、かつ「治療に有効な308~312nm」の波長を選択的に患部に照射することでPUVA療法と同等の効果を発揮していくことが出来ます。
紫外線療法の効果としては、表皮細胞の過剰な増殖を抑制し、炎症を起こす「Tリンパ球のアポトーシス誘導」(不活性化)や炎症を抑える「制御性Tリンパ球の誘導」などの機序が考えられています。ナローバンドUVB療法は、広い病変部への照射が可能で有り、当院に設置している部分型照射装置では体の向きを変えて両手掌もしくは両足底全体に照射することが可能です。
一方、近年開発されたターゲット型照射装置「エキシマライト」の利点としては、1回にあてられる照射範囲は狭いものの局所的に強いピークパワーの光線であることです。患部以外への照射が避けられること、より少ない治療回数・総照射量での高い有効性・治療効果が示されております。
ナローバンドUVBの適応
掌蹠膿疱症では、ステロイド外用剤やビタミンD3外用剤のみでは治療に反応しない場合も多く、一方で外来通院での治療が可能な「ナローバンドUVB」で多くの有効例の報告があります。なお、原因検索としての、金属アレルギーのチェックや扁桃腺などの感染病巣の検索も行われますが、はっきりした原因が分からない場合もあります。
さらに、う歯治療・扁桃摘出術などの感染病巣治療を行ったあとにおいても、掌蹠の皮膚症状が改善するまでには半年~1年近く掛かりますので、術後の後療法としての「ナローバンドUVB」を行っていくことも可能です。
掌蹠膿疱症では多くの学会発表・論文等で、「週1~2回程度の紫外線照射を15~30回程度の照射で症状が改善する」ことが報告されております。現在の所、掌蹠膿疱症は絶対的な患者数があまり多くない疾患のために治療ガイドラインや光線療法のプロトコールがないことが問題となります。一方で実際には、下記のように国内では多くの紫外線療法の効果・有効例が報告されております。
掌蹠膿疱症に対するナローバンドUVBの有効性の国内報告例
ナローバンドUVB・エキシマライトの有効性
- 2003年上尾ら 掌蹠膿疱症4名にナローバンドUVB平均15.5回照射し、有効3例・著効1名。
- 2006年磯村ら 掌蹠膿疱症5名に対してナローバンドUVBを適応し4名で有効であった報告。
- 2007年山中ら 骨関節病変を伴う掌蹠膿疱症にナローバンドUVBが有効であった1例。
- 2010年今福ら ナローバンドUVBの掌蹠膿疱症への有効性の報告。
- 2011年古橋ら 20名にエキシマライトを週1回・30回照射し改善した報告。
- 2012年加藤ら 掌蹠膿疱症8名に週1回・合計16回照射し、副作用無く優位に改善。
- 2013年武明ら 掌蹠膿疱症34名 エキシマライト療法の治療に対する反応良好で、憎悪抑制に有用。
- 2016年東山ら 週1回・合計14回照射にて寛解。
以上、国内に於いては数名~30名程度の紫外線治療の効果・有効性の報告があります。
2016年の東山らの報告によると、
- 海外での報告例では初回照射量、最大照射量ともに国内の報告よりかなり大きいとしている。17例中13例において80%以上の改善率を認め、4例においては治療終了6カ月後にも75%以上の改善率を維持したとしています。
- 国内の報告では、初回照射量300~350mJで開始されて、最大照射量は8~2.0Jであった。治療成績は、平均16週で60%程度の改善率を認めています。
- 注意点としては、照射の際に足縁部で紅斑を生じやすいので、遮光などの工夫が必要とし、今後の照射方法のプロトコール標準化が必要としています。
※上記は東山らの報告「エキシマライトによる掌蹠膿疱症および手足の尋常性乾癬の治療」より引用
- Nistico:J Eur Acad Dermatol2006
- Campolmi:Int J Imm Pharm2002
- Aubin:Br J Dermatol2005
- Furuhashi:Exp Dermatol2011
- 川原:皮膚病診療2012
- 高原:西日皮膚2012
さらに、2007年山中らの報告によると、従来のPUVA療法にかえて「ナローバンドUVB照射を適用」したところ、皮疹・骨関節症状も著明に改善し、内服量法も離脱できたとしています。本例は症例報告となりますが、その後月1回の維持照射での長期寛解状態が維持できていると結んでいます。
なぜ、局所的な紫外線療法で「骨関節症状の改善」が得られるのか理由は不明ですが、当院に於いても肩鎖関節痛があった患者さんが、ナローバンドUVBおよびエキシマライトを組み合わせて照射したところ、30-40回程度の照射のあとに維持照射をしばらく行い「骨関節症状」の改善した方を経験しております。掌蹠における皮膚の炎症状態に対して「なるべく広い範囲に紫外線照射」を行っていくことによって、全身的な免疫異常も抑えられる可能性もあるのかもしれません。
当院での掌蹠膿疱症での紫外線療法
ナローバンドUVBを用いる場合には、①0.5Jの初回照射より開始し、②紅斑や発赤などの副反応がでないことを確認しつつ、0.1Jずつ照射量を上げていく、③最大照射量は1.5Jで固定し照射を続けることとしています。
赤みなどの問題がなければ、10回目の照射で最大値1.5Jに達するため、まず合計15~20回照射を目安に治療を行い、効果のある場合には紫外線照射を継続しております。皮疹の改善がある程度、安定してきた段階で紫外線治療を中断するか、月1~2回程度の維持光線療法に切り替えることも可能です。
エキシマライトの場合には、①100mJの初回照射より開始し、②紅斑や発赤などの異常がないことを確認しつつ100mJずつ照射量を上げてきます。③通常の最大照射値は1000mJ程度となりますので、10回目の照射で最大値に達することになります。その後は皮疹が安定するまで15回~20回ほど追加照射を続けます。
当院では、ナローバンドUVB装置「UV801BL/Waldmann社製」およびエキシマライト照射装置「308エキシマ-システム/QuantalDerma社製」の2種類のナローバンドUVBを設置しており、①掌蹠の局所の狭い病変にはエキシマライトを、②手のひら・足裏の広い病変にはナローバンドUVBをと使い分けております。また、どちらかの治療で改善効果が悪い場合には、③ナローバンドUVB⇒エキシマライト、もしくはエキシマライト⇒ナローバンドUVB療法とローテーション治療を行っていくことも可能です。
照射頻度に関しては、週2回行った方が治療の効果が高いと考えられますが、通院負担の軽減のために週1回での照射を行うことも考慮されます。週2回の通院ですと、症状改善のみられる20回程度までに達するまでに2ヶ月半程度の治療期間を要し、また週1回の通院ですと、5ヶ月程度の期間を要することとなります。
治療費は、保険適応での「中波紫外線療法340点」となりますので、3割負担の方では「紫外線療法の自己負担額=1020円」となっております。
治療効果判定に関しては、治療開始時と10回程度照射をおこなった際に写真で記録を取らせて頂いておりますので、ご了承ください。
掌蹠膿疱症に対するナローバンドUVBの安全性
紫外線療法は、従来のPUVA療法より、「より安全性が高く有効性もあるナローバンドUVB療法」に現在移行しており、かつ部分的な病変にも高い治療効果を示すターゲット型照射「308nmエキシマライト」も登場しています。PUVA療法では「一定回数以上の照射(400~1000回)」での発癌性の報告もありますが、ナローバンドUVBについては乾癬治療に於いて600回以上の照射でも皮膚癌の発生は認められなかったという報告があります。
さらに、白斑治療ワーキンググループにおける検討結果でも「とくに回数の制限を設ける必要はない」との提言もなされてきております。ナローバンドUVBは海外で1990年代に活用されはじめてから30年以上経過しますが、「発癌性が増加した」という報告はなく、余程強い紅斑や水疱形成を作らない限りは、安全性については現在紫外線療法の中で一番高いと云えます。
掌蹠膿疱症の根本治療について
掌蹠膿疱症の治療のもう一つの柱は、「悪化原因の除去」となります。現在の所、悪化誘因となりえるものには、
- 喫煙
- 金属アレルギー
- 腸内環境異常
- う歯、扁桃腺炎などの慢性病巣感染
があります。
掌蹠膿疱症において喫煙者が8割以上いるとされ、とくに女性に於いては93%以上との報告もあります。喫煙は統計的にも悪化要因とされ、治療に際して「禁煙外来」などの受診も考慮されます。金属アレルギーに関しては「パッチテスト」を行い、アレルギー金属の特定を行っていく必要があります。もしも、特定の金属にアレルギーが出た場合には、金属を多く含む「豆類やチョコレート」などの摂取も控えていきましょう。
近年では歯科金属によって掌蹠膿疱症の皮膚症状が直接的に悪化するという報告はなく、歯科補綴剤の交換はいそぐ必要はありません。
掌蹠膿疱症においては腸内環境に問題があることも指摘されております。限られた報告とはなりますが、「血清ビオチン濃度」が正常人よりも低下していることが多く、「ビオチン+整腸剤」を併用したり、ビオチン低下につながる「生卵・生クリーム」などの摂取も控えた方がよいとされています。ビオチン療法は、とくに副作用も少なく併用療法としておこなっても問題ないでしょう。
掌蹠膿疱症において一番の悪化要因として近年報告されていることは「う歯・慢性扁桃炎などの感染病巣」です。治療に当たっては、歯科受診を必ず行い「虫歯や根尖感染病巣」の有無のチェックを行っていきましょう。もしも、問題があれば皮膚科での治療と伴に歯科での虫歯治療も同時に進めます。
以前に扁桃腺炎で炎症を繰り返したことがある方や中等度以上の慢性扁桃炎がある方では、「扁桃腺摘出手術」が考慮されます。扁桃腺炎を起こすと皮膚病変が出てくる場合や、無症状でも扁桃腺炎に慢性炎症があり掌蹠膿疱症の悪化に繋がっている場合もあるようです。風邪や咽頭炎は掌蹠膿疱症にとってよくないことになりますので、普段からうがい・マスクの着用などで予防を心掛けましょう。
※ご希望の方には「東邦大学大森病院皮膚科の専門外来」にご紹介しております。
まとめ
掌蹠膿疱症の多くの症例では、症状が寛解するまでに7~10年近くを要します。一度症状が治まったあとにも、再度皮膚症状が再燃することもあり根気よく治療を行っていくことが大切です。外用療法のみで改善の得られない掌蹠膿疱症の方では、治療効果も高く長期寛解効果も期待できる紫外線療法を組み合わせて治療を行っていくと良いでしょう。
一方、悪化誘因の除去には時間が掛かるため、皮膚病変の治療も進めつつ、順番に対応していく必要があります。感染病巣の代表である扁桃腺炎がある場合には、「扁桃腺摘除手術」の有効性が高いとされていますが、大学病院等を受診していただき、皮膚科・耳鼻科などの複数科での連携で治療に当たっていくことが必要です。当院においては、各種ナローバンドUVB療法および金属アレルギーパッチテストに対応しておりますので、掌蹠膿疱症でお困りの方はぜひご相談ください。