尋常性乾癬におけるナローバンドUVBの安全性・有効性
目次
尋常性乾癬の治療には、①ステロイド軟膏・活性型ビタミンD3などの外用剤、②紫外線療法(ナローバンドUVB・エキシマライト)、③内服薬治療、④生物学的製剤、の4つがあります。外用剤治療が乾癬治療の「第一選択」とはなっているのですが皮疹が広範囲になってしまったり、外用剤に対する反応が悪くなってきてしまうと、次のステージの治療として「紫外線療法」を行うことが推奨されています。
尋常性乾癬に紫外線療法が有効であることはかなり以前から知られており、
- 適度な日光浴をすると乾癬の皮疹が良くなる。
- 夏の紫外線が強い時期になると症状が軽快し、冬になると悪化する傾向がある。
- 死海療法という「イスラエルにある死海」で塩浴と日光浴をする治療が乾癬に有効である。
などが有名です。
本ページでは、2016年乾癬の光線治療ガイドライン(日本皮膚科学会)にもとづき、紫外線療法(特にナローバンドUVB)の安全性と有効性につきまとめていきます。
尋常性乾癬治療におけるナローバンドUVBの安全性
乾癬の治療にもちいられる紫外線療法、とくにナローバンドUVBは安全性が高く、統計上も現在まで発癌性が問題になるというデータはありません。妊婦・授乳婦に施行することも可能で有り、小児は10歳以下が相対的禁忌となっていますが「絶対禁忌」には該当していません。最大回数については、ナローバンドUVBにおいては明かな回数制限を設ける根拠はないとされます。400~600回程度までは比較的安全と考えられ、PUVAによるデータとなりますが1000回(1回平均1J/m2)がリミットとして重要な値になるとされています(2016森田ら)。
紫外線による発癌リスク(光発癌)については安全な順に、
- ナローバンドUVB
- ブロードバンドUVB
- PUVA療法
とされています。
ナローバンドUVBにおける尋常性乾癬治療に必要な照射量は、ブロードバンドUVBの3分の1程度であり、たとえ紅斑を生じるような照射量で治療を行っても、長期的な発癌性のリスクはブロードバンドUVBと同等か、少なくなるとされています。さらに、PUVA療法とブロードバンドUVBを比較した「マウスでの試験」および「ヒトでの臨床試験」においては、ブロードバンドUVBのほうがPUVAよりも発癌性が低いことがわかっており、3者を比較すると、ナローバンドUVBの方が一番安全性が高いことが推定されています。
海外の報告をみてもナローバンドUVB療法での発癌性を示唆する報告はありません。国内において根元らの報告によると、ナローバンドUVB療法を受けた患者総数663名において100回以上照射が81名、総照射量100Jを超えたもの39名のうち、最大照射回数629回、総照射量844.7J/cm2であったが、「悪性腫瘍・日光角化症等の前癌病変」などの皮膚変化はなかったとしています(当院と同じ種類のWaldmann社製紫外線装置を使用)。
もちろん、一般の日光浴等を含めた紫外線曝露による光発癌は、加齢に伴い20~30年後に発生するとされており短期の経過では不明な点もあります。一方、海外においてはナローバンドUVB治療機器が開発されて30年以上経過している事実、および臨床においてナローバンドUVBによる発癌性を示す論文がないことから現在の所、「ナローバンドUVBにて発癌性が高くなることはない」とされています。
尋常性乾癬におけるナローバンドUVBの有効性
日本国内では、2000年代初頭より名古屋市立大学の森田らなどをはじめとして「ナローバンドUVB照射機器」が使われはじめました。それ以前の尋常性乾癬治療に使われていたPUVA療法のようにソラレン(光増感剤)を使う必要性がないため外来診療においても簡便で、紅斑を生じない照射量で治療が可能なため、非常に扱いやすく国内で広まってきました。ナローバンドUVBはピークが、ほとんど311~312nm付近の非常にせまい狭帯域発生の光源であり、フィリップス社TL01が用いられます。
海外での乾癬の基礎研究として「紫外線療法に用いることが可能なさまざまな波長」を調べた結果、313nmのものが紅斑が生じない照射量(最小紅斑量)においても乾癬に治療効果のあることが確認されました。また、290nm以下の波長では紅斑反応が生じるのみで、治療効果はありませんでした。以上のことより、最小紅斑量以下の照射量においても治療効果のあるナローバンドUVB療法が確立してきました。
その後、より局所パワーのある治療法として「308nmエキシマライト療法」が登場し、照射範囲が狭いものの「治りにくい局部の乾癬病変」などへの治療に用いられています。光線の光源としては塩化キセノンXeCLが用いられ308nmをピークとする治療有効領域での照射が可能です。より狭い範囲に照射できるため、正常部分へ不要な紫外線照射が抑えられることに加えて、「光量のパワーが強いために治療効果が高いこと」と「治療回数を低く抑えられること」がメリットです。
これらの中波紫外線療法(ナローバンドUVB、エキシマライト)は、乾癬の炎症に係わるT細胞のアポトーシス(細胞を良い状態に保つための能動的細胞死)・抗原特異的な免疫抑制を誘導し、サイトカインなどを産生するT細胞増殖も抑えます。アメリカの乾癬ガイドラインでも、「有効性・安全性」の面からも費用対効果が高く、「乾癬治療の大きな基軸」の一つとされています。
ナローバンドUVBの適応
ステロイド外用剤および活性型ビタミンD3軟膏でコントロール不良の難治性乾癬を対象とし、国内の臨床試験において、5回の照射でPASI(乾癬の重症度スコア)が半分となり、早い段階で治療効果がみられました。寛解導入までの平均回数は18.5回であり、寛解導入率は65%程度、改善以上になると82%以上の高い有効性が確認されました。
13%で光線刺激による「光ケブネル現象」によって皮疹の悪化をみとめ中止となるものの、水疱などの高度の副作用を起こした症例はありませんでした。
乾癬治療においては、ナローバンドUVBのほうがブロードバンドUVBよりも治療効果に優れていることがあきらかとなり、「早い改善効果と寛解期間が長い」という特徴があります。海外ではGreenらの報告でも、乾癬の局面では92%、滴状型では100%皮疹が消失、もしくはほとんどみられない状態になったとしています。1年後の寛解率でもみてもナローバンドUVBでは38%となっており、長い寛解期間があることがわかってきました。
PUVA療法との比較では「ほぼ同等の治療効果」があり、さらに「外来での保険適応である週2回の照射」ではPUVA療法よりもナローバンドUVBが「有効性が高い」とされております。PUVA療法よりも長期の発癌性の懸念がより少ないナローバンドUVBは、病院・クリニックにおいても現在幅広く用いられるようになってきています。
ブロードバンドUVB・PUVA療法について
ブロードバンドUVBは、ナローバンドUVBに比較すると紅斑反応が生じやすく、治療効果を出しにくいために現在使用頻度は少なくなっています(当院においても先代が15年前まで治療で使用)。
1970年代より始められたPUVA療法は、乾癬のみならず様々な皮膚疾患治療に応用されてきました。一方、治療当日の遮光は必須であり、日本のように紫外線が多い地域では使いにくく主に入院治療として用いられてきました。PUVA療法での懸念は、ある程度の回数で発癌リスクが高くなることがあきらかなことです。
紫外線の副作用としては、
- 光老化(シミ・皺など)
- 光発癌
が長期的な問題となります。
名古屋市立大学の森田らは、乾癬のPUVA療法にて400回以上(総照射量で1000J/m2以上)にて照射部位に基底細胞腫、日光角化症・ボーエン病などが10%程度の症例で生じたとしており、PUVAは一生涯で限られた回数しかできないとしています。一般的に行われる部分照射においても一回1J/m2としても1000回程度が限界回数として重要な数値となると述べています。
但し、週2回の照射をおこなっても1000回に達するには、10年以上掛かるので各施設でそこまで多くの回数に達していることはないとしています。一方で、10年以上に渡り紫外線療法(PUVA)を続けた場合は患者さんに発癌性に関する情報を伝えると伴に、受診毎に皮膚の視診・触診などを行うべきと述べています。
ナローバンドUVBにおいてはPUVA療法よりも発癌性リスクは少なく、現在のところ、施行回数に明かな制限はありません。一方、施行回数および照射量に関しては記録を取っておくことが望ましいとされ、当院でも以前よりカルテに記録を残しております。
尋常性乾癬での紫外線療法の禁忌について
乾癬における紫外線療法の絶対禁忌・相対禁忌(要約)
◆絶対禁忌
- 皮膚悪性腫瘍の合併・既往のある方
- 高発癌リスクのある方(色素性乾皮症・ヒ素内服歴・放射線治療後など)
- 顕著な光線過敏のある方
★内服PUVAの場合
- 妊娠中・授乳中の女性
- 免疫抑制剤治療中および治療歴がある方
◆相対禁忌
- 光線過敏がある方、もしくは光過敏性がある薬剤服用中
- 白内障、光線憎悪性自己免疫水疱症、重篤な肝・腎障害
- ソラレン過敏症
- 10歳未満の方(但し、ターゲット型光線療法は除く)
となっております。
※ナローバンドUVBは妊婦には禁忌ではありません。また、小児に対しては回数を制限しておこなっても良いとされます。ただし、治療中に動いてしまう子供に対しては行うべきでないとされています。
◆光発癌について
光発癌については一般的に以下のことが分かっています。
- 皮膚癌は露光部皮膚にできやすい。
- 屋内で働く人より屋外で働く人の方が発生頻度は高い。
- 皮膚癌は赤道近くの地域ほど発生率が高い(緯度が10度下がると2倍)
- メラニン色素の濃さと皮膚癌の危険性は逆の相関関係にあります。
- 光発癌リスクは、白人>黄色人種>黒人となっています。
以上のことより、アジア人・黄色人種である日本人の発癌リスクは、「白色人種」より高くないものの、紫外線療法を行っていた方でのリスクを少しでも避けるには、日常生活以外の過度の日焼け(海水浴・ゴルフ・日焼けサロン)などには注意をした方が良さそうです。
まとめ
ナローバンドUVBは尋常性乾癬の治療効果も高く、治療後の寛解期間も長いすぐれた治療法です。乾癬治療においては活性型ビタミンD3外用剤との併用が効果的とされています。治療効果をあげていくには週2回の通院が必要で、明確な回数制限はないものの治療が400~500回以上などの長期におよんだ場合には、他の治療法も検討していくことが推奨されています。